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不定期コラム 徒然ではないのですが…37

2026年9月

最初のオープンアクセスジャーナルであるPLoS Biologyが出版されたが、やはり赤字でした。この後、学術誌はどのように変わってきたのでしょうか?

2002年のブタペスト宣言、2003年のNIHでのベセスダ宣言、ベルリン宣言でオープンアクセスの推奨と出版費用を研究費から出してよいことが明言されます。著者が支払うジャーナルの投稿料(article processing charge:APC)がこれまでの研究者のポケットマネーから研究費で出せるようになったのです。実は当時のAPCは5万円ほどだったそうですが、それすら公的な研究費から出すことが許されるのか、研究者には葛藤や躊躇があったそうです。しかし、研究費から出して良い、と明言されれば見かけ上は自腹が痛まないので、結構な額のAPCでも払うようになります。こうなると、ここに科学を食い物にするビジネスが、またまた入り込んできます。2000年にオープンアクセスの商業出版社であるBioMed Central(BMC)が作られ、様々なオープンアクセスの学術誌を立ち上げ、学術誌と論文が氾濫する時代が来ました。そもそもオンラインジャーナルは紙媒体のような印刷や送付などの作業が不要ですので、制作費があまりかかりません(これ故ハゲタカジャーナルの温床になるのです)。BMCは著者からAPCを取るスタイルで、オープンアクセスの学術誌を初めて商売として成り立たせます。APCもどんどん上昇しました。PLoSもPLoS ONEという画期的なジャーナルを2006年に創刊します。オープンアクセスは著者や研究施設からお金をとって運用するため、出版社は投稿された論文はできるだけ採択したい。しかし全部採択すると「クズ雑誌」と見なされ誰も投稿しなくなるので実験的に、1)対象分野を限定しない、2)ページ数や論文構成も著者一任、3)査読は「科学として正しい手続きを踏んだ」かどうかだけを担当者が確認、4)公開された後読者に査読=ネット販売のカスタマーレヴューと同一、としました。これが大ヒットしたのです(のちに同様の何でも掲載=メガジャーナルであるネイチャー誌のScientific Reportsに抜かれます。また2008年からは「科学として正しい手続きなら採択」のみを強調し、伝統的な査読に変更しカスタマーレヴューを中止しました)。PLoS ONEも運営費用の捻出から、当初は14万だったAPCを現在では論文の種類により26万円(2020年、1ドル=150円)と値上げしました。最初に書いたように、今ではAPCが100万を超える学術誌もあります。

東北大学ではトップ10%ジャーナルに入る論文のAPCは大学で負担してくれますが、日本ではそのような仕組みがない大学の方が多いと思います。論文を読むのは30年前よりすごく安く簡単にできるようになりました。しかし、こと論文を投稿することに関しては、個人でAPCを支払うことが多い大学人の金銭的負担は昔より増えています。真面目に研究に取り組む研究者ほど論文を書くわけですから、研究すればするほどお金がなくなります。投稿料が無料の学術誌もまだありますが、近年は論文を多くの人に見てもらえる=引用されるチャンスが増えることから、大学はオープンアクセスの学術誌への投稿を推奨しています。オープンアクセスの場合、読者は無料で閲覧でき、基本的に著者の負担により学術誌が作られます。一方で、デジタル投稿、オンライン投稿の現在の学術誌を制作するに実際に必要な費用や手間は、昔の紙媒体の雑誌に比べて非常に少ないはずです。手間をかけないことが大きな差額を生み、その差額が商業出版社の儲けになります。せっかく科研費で3年300万円を獲得しても、オープンアクセス誌に論文を2本出せばそれだけで100万が飛んでしまいます。間接経費の90万を除くと実際の研究に使えるお金は110万ということになります。獲得した研究費の1/3しか使えない、これは大きな問題です。加えて最近では、大きな出版社では「カスケード査読」による論文採用を行なっています。自社の一流誌で不採択の論文を姉妹誌へ投稿させ、査読結果をそのまま利用します。著者にとっては査読期間が短くなるため、非常に魅力的です。A誌がダメならB誌、B誌もダメならC誌と、自社のどこかの学術誌で採択すれば出版社としてはAPCの取りっぱぐれがないわけです。また、一流誌でも論文単位のオープンアクセス化が行われています。これをハイブリッド誌と言います。先生方もacceptのあと、オープンアクセスにしませんか、というメールが来たことがあると思います。ここにチェックすると、APCの他に更に数十万円のオープンアクセス費用が必要になり、APCと合わせて100万近くになります。世界中の多くの人に自分の研究結果を読んでもらいたい、という研究者の心理をついた商売ですね。

近年、論文数、とくにインパクトファクター(IF)*の高い学術誌に掲載された論文数による科学者の評価が一般的になり、現在1年間に発表される論文数は1981年の4倍以上だそうです。学術誌には掲載できるキャパシティに限りがありますから、論文数が増加すればそれを掲載する学術誌も増えます。当然、その学術誌に掲載される論文の質の担保が問題になります。20年前のJBJSに採択された論文がある一定のレベル以上だったとすれば、現在のAPCを取るJBJSは掲載されている論文の平均的なレベルが下がっている可能性もあります。APCを払える研究者、研究室の論文だけが投稿できるため、もしかしたら(ないことを祈りますが)一定数の論文を確保するために玉石混交になっている可能性があります。そもそも整形外科で最も有名なジャーナルにお金のある研究者だけが投稿できる、これは好ましいことでしょうか?また学術誌の増加は、査読者のやる気を確実に削いでいます。僕にも毎日数本の査読依頼が来ますが、日整会や日本脊椎脊髄病学会、東北ジャーナル以外は、SpineやJ. Neurosurgが来れば別ですが、他は全て断っています。何しろ査読者の専門も知らずに僕に膝や股関節、骨折、さらには腹部外科などの査読まで依頼してくるのです。OCIDをちょっと調べれば僕のresearch interestはSpineとspinal disordersと書いてあります。それすらチェックしないで査読を依頼するわけです。著者からはAPCを搾取し、他方査読者にはボランティアを要求する商業誌には腹が立ちます。最近は査読にも謝金が出る場合があるようですが、残念ながら僕にそのような依頼が来たことはありません。ちなみに現在の査読制度が始まったのはコピー機が普及した1973年、Natureでした。また、査読制度にはそれまでの常識では理解できないような斬新な着想は評価されない、身内による「お友達システム」である、などの欠点があり、ワトソンとクリックDNA螺旋モデルの論文もNatureに査読があれば掲載されなかったといわれているようです。また、採択されるまでの著作権は著者にあるため、アインシュタインの有名論文は彼が掲載前の他専門家への論文開示を許可していないために全て査読を受けていません。どの学術誌でも投稿論文のうち編集部で却下されず査読に回るうちの半分が採択されるそうで、Scienceなどの有名誌は80%が最初に却下されるそうです。査読に回る割合が多い=編集部の能力が低い、ジャーナルとしての質が低い、ということのようです。

オンラインジャーナルの包括パッケージ購入と著者のAPCにより、現在の研究者や大学を含む研究機関の負担は決して軽くありません。東北大学も複数の出版社からオンラインジャーナルを包括購入しており、その額は年間10億円近いと言われます。また、そもそも著者がお金を出して自分の論文を読んでもらう、というビジネスモデルが研究者倫理として正しいのかという問題があります。現在の某国のように、このモデルで国家レベルで学術誌を運営し始めると、自国の利益のためにインパクトファクターもh-indexも操作可能となり、COIありまくりの論文で学術誌を埋め尽すことも可能になります。そのような学術誌に掲載された論文が信用できるのかも検証が必要です。「学術出版の来た道」の中で著者の有田正規氏は「現状では(日本は)高価な機器や薬品を海外から買い、汗水流した研究の成果を海外の学術誌に投稿して著作権を渡し、そして掲載された学術誌を割高な価格で購買している。」と書いています。公的研究費の配分を決める政治家は、このような現状を知っているのでしょうか?

*IF:過去2年間に掲載されたその学術誌に含まれるすべての論文やレターなどが、次の1年で引用された平均。現在クラリベイト・アナリティクス社が発表している。始めたのは論文引用解析の第一人者ユージン・ガーフィールド(米)。1972年にサイエンス誌にIFによる学術誌のランキングを発表。全論文の7割が学術誌の2割に当たる500誌に掲載されている=コア集団。1975年からJournal Citation Reports (JCR)やScience citation index (SCI)で発表されている。これにより学術誌の英語への統一が進んだ。現在SCIに収載される学術誌は21000、そのうちIFが付与されるのは60%以下の12000である。SCIは科学雑誌のIFを掲載するが、ほかにも人文科学向け、芸術向けなどの索引が合計で10あり、これらをまとめてWeb of Scienceと呼ぶ。同様のデータを集めるクラリベイト社のライバルがリード・エルゼビア社の運用するScopusである。

相澤 俊峰

PS:全く関係ないですが、コラム32で書いた「まるてる葡萄園」から届いたシャインマスカットと巨峰です。少しサービス入っていますが、4房で6,100円でした。大変美味しかったです。今年はもう終わりですって。来年またお願いします。

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