2024年11月
アメリカメジャーリーグで大谷翔平、山本由伸両選手が所属するロスアンジェルス・ドジャースがワールドシリーズを制しました。いやあ、素晴らしい。ワールドシリーズに入ってからは、さすがの大谷選手も緊張したのか(?)、それまでのようには打てず、また第3戦で左肩を負傷しましたが、4勝1敗でニューヨーク・ヤンキースを破りました。野茂英雄選手以来、「日本人投手は活躍するが、野手は・・・」と言われてきましたが、大谷選手のレギュラーシーズンでの2年連続の本塁打王獲得は、日本人野手に対するこれまでの評価を払拭してみせました。
マスコミ的には、「これでやっと日本人選手のレベルアップが証明された」というような書き方がよくされますが、果たしてそうでしょうか?確かに1980年代に初めてメジャーを見たときには、その圧倒的なパワーとスピードに目を見張りました。座ったまま投げて盗塁を阻止するサンディエゴ・パドレスのサンティアゴ捕手、ノーラン・ライアンやランディ・ジョンソンの快速球、ホセ・カンセコやマーク・マグアイアの豪快なホームランは、日本人がいくら頑張っても、未来永劫追いつけないものではないか、と思わせました。しかし、イチロー選手がスピード、強肩でメジャートップの実力を示し、安打数で大リーグの記録を作り、大谷選手のホームランのあの飛距離です。そこで思うのです。やはりスポーツで比較すべきは個人の能力でしょう。アメリカ人だろうが日本人だろうが、黒人だろうが黄色人種だろうが、優れている選手は優れているのです。そこに人種や国籍などを入れて、徒なナショナリズムや人種間の優劣を煽る必要はない。日本人選手も勿論、トレーニング方法から練習環境まで大幅に変わり、以前に比べれば格段にレベルアップしたと思いますが、だからと言ってこれら少数の人達の活躍から「日本の選手育成方法が、日本人選手が素晴らしい」とは言えません。確かにベースには日本人選手のレベルアップもあったでしょうが、ただ、大谷選手が、山本由伸投手が素晴らしいのです。それで良いと思います。
大谷翔平選手も山本由伸投手も日本にいたときから、最高峰の舞台であるメジャーで勝負することを目標に努力してきました。山本投手はオリックス時代にあれだけ活躍していながら、硬いメジャーのマウンドに合わせて、投球フォームを変えましたね。大谷選手が花巻東高校時代に「目標達成シート(マンダラチャート)」を書いていたのは有名です。おそらくは花巻東高校の選手みんなが書いたと思いますが、成功者である大谷選手のものばかりがクローズアップされたのでしょう。ただ、若い時分にこのような「夢」とそれに到達するための「直近の目標」を明確にし、時々それを眺めて達成度を確認するのは非常によい方法だと思います。僕たち医師は、毎日の業務に忙殺され、自身の「夢」や「目標」を忘れがち、もっと言えば「持てない」ことがあります。年のはじめには1年の目標を考えるでしょうから、もっと長いスパンで10年先、退職までの「夢」や「目標」と、それに到達するための計画を、時々は考えたいですね。
さて、9月〜10月は学会シーズンで、僕も東京、箱根、幕張と学会に参加してきました。新幹線や駅のホームで目立ったのが外国人旅行者です。仙台もとても外国人旅行者が増えましたね。彼(女)らにしてみれば物価が安く加えて円安、治安が良く、自然と便利さが調和した日本はとても魅力的な旅行地なのでしょう。2024年の外国人旅行者数は毎月過去最高を更新しているそうです。外国人がこんなに来るのは、「日本って本当は良い国だから」だと思います。GDPが世界4位に落ちた、論文ランキングでも下降傾向が止まらないなど、これまで日本が自信を持ってきた経済、科学、技術の分野で国際的な地位が下がってきたことで、もともと「和」を重んじる内弁慶な日本人は自信をなくしたように見えます。しかし、自分が日本で生活していて、日本がそんなにひどい国とは思えません。時間通りに電車やバスは来るし、停電は殆どありません。スーパーやコンビニには物が溢れ、よほどのことがないと品切れになることはありません。
海外の評価も高く、イプソス国家ブランド指数(NBI)では日本がついに1位に立ちました。NBIはフランスのコンサルティング会社などが2008年から毎年実施している国家ブランド力評価です。60カ国を対象に「輸出」、「ガバナンス」、「文化」、「人材」、「観光」、「移住と投資」という6つのカテゴリを調査することで国家のブランド力を出しています。一方でスイスの国際経営開発研究所が発表する「企業がビジネスで競争力を発揮しやすい環境が整っている国・地域」を順位付けしたIMD世界競争力ランキングでは38位と低く、英米の旅行会社の「世界で最も魅力的な国ランキング」では2年連続1位です。つまり、日本以外の国から見ると、日本は経済的な競争力は低下しているが、国そのものは悪くない、むしろ良いところですよ、ということが言えるかもしれません。経済的競争力は資源のない日本ではある程度は高くなければなりません。でも、負け惜しみかもしれませんが、本当の豊かさというのは、精神的なものを含めた、もっと違うところにあるのかもしれません。戦争や紛争がない安全安心なところで生活でき、時々ちょっと美味しいものを家族で一緒に食べられる。読みたい本を時々はゆっくり読める。そんなところに幸せがあるとも思うのです。今後日本は、全てが緩やかにダウンサイジングする方向に向かいます。国としても個人としても何を大事にしていくべきなのか、秋の夜長にそんなことをゆっくり考えるのも良いかもしれません。
相澤 俊峰