東北大学整形外科学教室

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わかりやすい 五十肩・肩の痛み

著者 東北大学整形外科名誉教授 井樋 栄二

中高年から増えてくる、五十肩。そのはっきりした原因はわかっていませんが、「動かしても動かさなくても痛い」「肩が上がらない」と困っている患者さんは多いようです。五十肩について、痛みと可動域制限を改善するための治療法を中心に紹介します。

中年以降に多い肩の痛み、「五十肩」とは

中高年の人が悩まされる肩の痛み、いわゆる「五十肩」は、50歳代を中心とした中年以降に、肩関節周囲組織の退行性変化を基盤として明らかな原因なしに発症し、肩関節の痛みと運動障害を認める疾患群と定義されている1)(広義の五十肩)。五十肩には特に誘因が認められないことが多く、ときに軽微な外傷の繰り返しの後に肩の不快感や疼痛で発症する。好発年齢は40~60歳代である2、3)

肩関節は上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨で支えられ、肩を大きく動かすために肩甲骨関節窩が小さく上腕骨頭のはまりが浅い(図)。骨だけでは構造的に不安定なところを関節包や発達した腱板が強度を高めている。そのため、肩の酷使によって炎症や損傷が起こりやすく、痛み、可動域の制限が起こると考えられる。また肩関節の炎症は、肩峰下の滑液包や関節周囲の筋肉に広がることがあり、このような肩関節周囲炎が狭義の五十肩と呼ばれる。

肩に痛みをもたらす他疾患との鑑別が重要

五十肩は通常、片側にだけ発生し、回復後に同側に再発することはほとんどないため、強い肩の痛みを繰り返して訴える場合は、他の疾患との鑑別が必要となる4)。腱板断裂、石灰性腱炎、変形性肩関節症、絞扼性神経障害、頸椎疾患、神経原性筋萎縮症、腫瘍性疾患、内臓からの関連痛などに注意する1)。問診、診察・理学所見、画像診断(単純X線撮影、MRI、超音波検査・関節造影など)から鑑別する。

特に、痛みが長引くときは腱板断裂を疑う。五十肩と腱板断裂では痛みの現れ方が違うことが多い。五十肩では腕を上げる途中に痛みがなく「これ以上は上がらない」という動きの最後の時点で痛みが起こることが多く、腱板断裂では腕を上げる途中に痛みが起こることが多い。腱板断裂を放置しておくと腱板や周囲の筋肉がやせたり断裂が広がったりして日常生活機能を冒しかねず、早期発見が重要である。

五十肩発症による「痛み」と「可動域制限」の経過

五十肩の病期は症状の推移から三期に分けられ、一般に発症から約2週間の急性期、その後約6ヵ月間の慢性期を経て回復期に至る4)

急性期には運動制限を引き起こす運動時痛に加えて安静時痛や夜間痛が出現し、徐々に関節拘縮が現れて肩の可動域が制限される。慢性期には徐々に痛みが軽減し日常生活でも患肢をかばう必要がなくなるが、可動域制限は残存する。回復期には可動域制限がまだ残るものの、痛みが少ないために大きな機能障害の自覚はなくなり徐々に可動域が自然回復する。これらの回復経過に1年前後を要するとされるが、一方で平均約7年後にも半数の患者に何らかの痛みや可動域制限が存在していたとの報告があり5)、安静と患者の自然治癒力に任せるだけでなく、積極的に痛みと可動域制限を改善する治療が必要である。

NSAIDsで肩の痛みを和らげ運動療法で可動域を改善する

治療方針は2つ。すなわち、肩関節の痛みを和らげて、かつ可動域を改善することである。薬物療法、運動療法、理学療法で改善することが多いため、ほとんどの症例で手術は必要ない。手術の場合も侵襲性の低い関節鏡視下授動術などを選択できる。治療に先立ち「五十肩の経過」と「大多数の患者では自然に回復する」ことを説明して患者の不安感を和らげてから、治療の内容を伝える。治療は数ヵ月以上にわたり、自発的な運動療法の継続が必要なため、患者が積極的に治療に取り組むことが重要である。

[病期に合わせた生活指導]

急性期の痛みの強い時期には荷物や肩を上げる動作で肩に負担をかけないようにし、比較的安静を保たせる。痛みが落ち着いてきたら痛みのない範囲で動かすように指導する。慢性期や回復期では痛みの状態を確認しながら、関節の拘縮を改善する運動療法を指導して積極的に肩を動かすようにさせる。

[痛みを和らげる薬物療法]

除痛には薬物療法が有効であり、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を用いる6)。経口剤(錠剤など)は日常的に使用され、その効果も確認されている。最近はパップ剤、テープ剤などの外用貼付剤も多く販売され、経口剤に匹敵する効果が認められている。また、主な副作用は皮膚のかぶれ等であることから比較的使用しやすい。ときに筋弛緩剤や精神安定剤を組み合わせることもある。また、痛みが強い場合には肩峰下滑液包内または肩関節腔内にステロイド剤と局所麻酔剤の混合液や、高分子ヒアルロン酸ナトリウムを注射する除痛法もある。

[可動域を改善する運動療法]

慢性期に入って痛みが弱まったら、肩関節の拘縮予防と可動域改善のために運動療法を開始する。肩を温めながら少しずつ動かし、痛みがほとんどなくなる回復期に入ったら、徐々に動きが良くなるのに合わせて、慢性期以上に積極的に肩を動かすようにする。基本的には患者自身が自宅で行えるCodman体操(振り子運動)などで訓練させるが、改善が思わしくない場合は通院にてリハビリを行う。運動療法と同時に保温、血行の改善、痛みの除去、筋痙縮の軽減などを目的として、温熱・冷熱療法、超音波療法などを組み合わせることがある。

五十肩は痛みと関節可動域の制限から日常生活を大きく妨げる。つらい症状を改善する治療が、中高年以降のQOLを高めるために重要である。

文献

1)佐藤毅ほか:骨・関節・靭帯 17(10):1079-1083, 2004

2)信原克哉:肩-その機能と臨床- 第3版:医学書院, 東京, 2001

3)Harryman DT Ⅱ, et al.:The Shoulder:Saunders WB, 1998

4)井樋栄二:きょうの健康(247):54-57,日本放送出版協会,東京,2008

5)Shaffer B, et al.:J Bone Joint Surg Am 74(5):738-746, 1992

6)井樋栄二[編]:やさしい肩の痛みの自己管理:医薬ジャーナル社, 東京, 2008

7)皆川洋至ほか:MB Orthop 17(7):9-11, 2004

肩の痛みをやわらげるエクササイズ
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肩の痛みのQ&A

肩の痛みの原因はさまざまですが、ちょっとした工夫で痛みを軽減させることができます。

日常生活で気になっていること、患者さんにこう聞かれたらどう答えますか?

Q. 肩が痛くて眠れません。どうしたらよいでしょう?

痛いほうの肩を上にして横向きに寝転がると楽に眠れる場合があります。また、背中に布団や座布団をあてて、肩をやや高い位置に保つと楽になることが多いです。痛みが強いときには痛み止めのお薬を飲む、貼るなどして痛みを取るとよいでしょう。

Q. 五十肩の痛みは放っておいても自然に治まるのですか?

五十肩になって何週間かは、肩を動かしてもじっとしていても激しい痛みを感じます。痛みが弱くなってから、肩が上がらない、回せないなど、肩の動きが悪くなる時期があります。その後数ヵ月から数年の間に、自然に痛みと肩の動きの悪さは治まりますが、痛みをがまんして無理に動かすとよけいに肩を痛めることがあります。また、動かさずにじっとしていると肩の動きがますます悪くなってしまうこともあります。きちんと医師の診察を受け、診断に合った薬や運動を続けることが大切です。

Q. 運動療法を行った後すごく痛むのですが、続けてもよいですか?

運動した後に痛んだら、どれくらいで痛みが治まるか様子をみてみましょう。翌日には元に戻る程度なら、運動の回数を急に増やさずに少しずつ続けましょう。運動した後に痛みが強くなったり、なかなか痛みが治まらないときには無理に続けてはいけません。また、運動する前に肩を温めたり、運動の後に冷やしたりするとよいのですが、必ず医師や理学療法士に相談しましょう。

痛みの常識・非常識 肩こりは日本人だけ?

肩こりは日本人で最もよくみられる身体症状の1つであり、平成19年に実施された国民生活基礎調査において女性では第1位、男性でも第2位に多かった自覚症状です1)。小さな子どもが両親や祖父母の肩もみをしている姿は微笑ましい情景ですし、「かあさん お肩をたたきましょう♪」という童謡は、ある程度の年齢の日本人なら誰でも歌えるのではないでしょうか。

ところで、外国映画や小説ではほとんど「肩がこった」という表現を目にすることはなく、肩もみをしている場面に遭遇することもありません。はたして肩こりは日本人に特有の症状なのでしょうか?

「肩こり」を和英辞書で調べると「shoulder stiffnes(日本で作られた英語)」2)と出てきます。文献データベース(PubMed)でこの言葉をキーワードに検索すると600件余の文献が表示されます注)が、その使われ方は肩関節周囲炎に近いものも多く3)、いわゆる「肩こり」とは使われ方が違うようです。一方、英語圏では“shoulder”は、肩関節そのものをさすことが多く、肩こりは「stiff neck」と表現するのが一般的ともされます4)。ただし、stiff neck(stiffness of neck)は項(部)硬直を表す用語5)でもあり、なかなか「肩こり」に該当する適切な表現はないようです。

とはいえ外国人に「肩こり」自体がないわけではなく、例えばコンピューターを使っている職場で働く人を対象にしたオランダの調査では、最も多かった身体症状は頸(neck、33%)および肩(shoulder、31%)であり6)、彼らも肩こりに悩んでいることが推測されます。

立川昭二の著作である『からだことば』4)によれば、「肩がこる」という言葉は江戸時代にはごく一部で使われてはいましたが、広く使われはじめたのは、明治時代の夏目漱石の頃だったそうで、漱石の作品『門』に「肩がこる」という表現が登場しています。

ところで、身体を使った慣用語のなかでも「肩」は「肩書」「肩身」「肩を並べる」「肩を持つ」など、非常に多く使われる言葉の1つであり、日本人の肩への強いこだわりが感じられます。

注:2009年8月10日現在640 件

文献

1)厚生労働省:平成19年国民生活基礎調査 (http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa07/3-1.html

2)日本医学会:医学用語辞典 和英 第1版:南山堂, 東京, 1994

3)Bhargav D, et al:Aust Fam Physician 33(3):143-147, 2004

4) 立川昭二:からだことば ―日本語から読み解く身体―:ハヤカワ文庫, 東京, 2002

5)日本医学会:医学用語辞典 英和 第1版:南山堂, 東京, 1997

6)Eltayeb S, et al:BMC Musculoskelet Disord 8:68, 2007