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不定期コラム 徒然ではないのですが…18

2024年12月

早いもので、今年も12月、師走になってしまいました。1月に能登半島地震のことを書いたのが、本当に昨日のことのようです。能登半島ではまだ避難生活を送っていらっしゃる人もいると伺います。一刻も早い復旧を祈念しております。

さて、今年は月1本くらいこのコラムを書いて、教室員や同窓会の先生方に、自分が普段考えていることを発信しよう、と思っていました。これが11本目ですからほぼ毎月書きましたね。1月に今年はどんな年になるか、3つの観点から書きましたが、どうだったでしょうか?日整会総会では今年も教室員、同窓会員の頑張りで30演題弱の発表がありました。これで30演題前後が3年続きました。素晴らしいですね。専門研修プログラムですが、来年も11人(専攻医10名+専攻医プログラム終了者1名)が東北大学の仲間に加わっていただけます。ここ4年、毎年10名以上が新しく加わってくれていますので、これも素晴らしい。研究ですが、歩行解析では今年大学の馬塲一滋先生の英語論文を出すことが出来ました。現在投稿中、投稿準備中のものもあります。一方で、「肩こり」は難しい。田中秀達助教、大野木孝嘉助教を中心に研究してもらっていますが、まだよくわかりません。しかし、国民生活基礎調査でトップ2を占める腰痛と肩こり、特に筋に由来する痛みの評価、原因解明は、整形外科医の使命と思います。時間がかかりますが、少しずつでも前進したいと思います。

年末のこの時期になると、各大学の同窓会誌が送られてきます。立派なもの、うちと大差ないもの、うちよりも貧弱なもの、いろいろです。立派なものの代表が九州大学です。ほぼカラーで、昨年からは診療グループごとの歴史を特集しています。1回目が小児整形、今年は「九州大学整形外科脊椎班の軌跡」が書かれており、興味深く拝読しました。日本の整形外科は東京大学の田代義徳教授、京都大学の松岡道治教授に始まるのですが、大きく発展させたのが東京大学の第2代高木憲次教授であり、九州大学の第2代神中正一教授と第3代天児民和教授です。この神中教授時代から現在に至る九州大学脊椎外科班、そして総合せき損センターの歴史について書いてあります。さすがに九州大学で、Mixer & Barr が1935年に発表する前、1932年に東 陽一先生(後の熊本大学教授)と市村平八郎先生は腰椎椎間板ヘルニアの手術を行い「椎間軟骨結節による脊髄圧迫症、ならびにその一手術例」(グレンツゲビート6)という論文を残しています。また、浪越康夫先生は「畸形性脊椎炎の臨床的レントゲン学的研究」(日整会誌2、1928)で「椎体後縁が突出し、第5腰椎椎間孔が狭小となり、神経は骨壁に圧迫され、真正坐骨神経痛の一起因と見なし得べきものなり」としてVerbiest Hが1954年に報告するより25年も早く腰部脊柱管狭窄症、しかも椎間孔狭窄を指摘したそうです。ただ、まだ日本で英語論文を書くのが一般的ではなかった時代のため、いずれも日本語論文でした。このため、業績は素晴らしいのですが、いくら九州大学の先生が悔しがっても、腰椎椎間板ヘルニアの最初の手術は、世界的に見ればMixer & Barrなのですね。英語で書いていれば、世界の脊椎外科の歴史が変わっていたでしょう。このような前例をみると、英語論文で残すことがいかに大切かわかります。そういう意味では、1934年(昭和9年)に脊椎カリエスの前方手術をJBJSに掲載した京都大学の伊藤 弘教授は素晴らしい。米国の側弯症学会のHistorical Timelineにも日本人として最初に載っています。

現在は昔と比べてたくさんの英文ジャーナルがあります。症例報告も研究成果も、なるべく英語論文で残すように心がけてください。最近はトップ10%ジャーナルやh-indexに代表されるように、その論文がどれだけ引用されたかが問題にされ、某元病院長などは「10%ジャーナル比率が高いほうが良い。引用されない症例報告はその割合を下げるから、書かなくて良い」ようなことも言っています。しかし、果たしてそうでしょうか。論文を書くことでより深く勉強する、考えがまとまる、こともありますし、論文を書かないで発表だけではやがて忘れられてしまいます。何より僕たちが論文を書くのは決して業績のためだけではないはずです。とくに症例報告は、後輩たちが自分と同様な経験をした際に、自分の経験したことを残すことで何らかの参考にしてほしい、そのような気持ちがあると思います。論文に書かないで「ああだ、こうだ」言っても、それは単なる個人的意見であり、査読者の目を通り評価された“専門家の意見”とはみなされないのです。これまで論文をあまり書かなかった先生も、症例報告でも良いので、来年は(も)論文をできれば英語で書くようにしましょう。

相澤 俊峰

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