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不定期コラム 徒然ではないのですが…26

2025年9月

短期のインターバルでコラムを出すと「何だ、教授は暇=徒然だな」と思われるかもしれませんが、前回のコラムを書いた時に調べたので、今回も言葉の話をしましょう。

今では大分少なくなりましたが、ちょっとした時にドイツ語やドイツ語もどきが出てくる先生が近くにいませんか?カルテやシーネ、ムンテラなどはご存知のようにドイツ語に由来しますが、少なくとも医者の間では日本語として市民権を得ていますし、ネーベンのようなドイツ語もどきも使われています(指導医のオーベン(oben=above)は「上」を意味する前置詞で、「下の医師」を指すネーベンnebenはもともとは「となりの」の意味ですが、日本では「下」の意味で使います。オーベンの「となりの」にいつもいるから、という解釈もあります)。以前も書きましたが、僕の1学年上の先生は、「エッセンいこう(食事に行こう)」だの、「マイネフラウ(私の妻)は今日出かけているから呑みに行こう」だの、よくドイツ語を日本語に混ぜて使っていました(徒然ではないのですが・・・15、参照)。「医学界新聞」にふさわしい例が出ていたので引用します。

「ティーテルの発表会の時、グルントのプロフから方法論に対してアインバンドが入ったが、うちのズブが助け舟を出してくれて何とか合格した。」

どうですか?年配の先生であればおわかりでしょうが、若い先生はさっぱりでしょうね。標準的な日本語では「学位の発表会の時、基礎医学の教授が方法論に対して反対意見を述べたが、自分の科の准教授が助け舟を出してくれて何とか合格した。」となります。

ドイツ語が日本の医師の間で広く使われているのは、明治維新で新政府がイギリス医学でなくドイツ医学を採用したこと、その名残が太平洋戦争終戦まで続いたことによります。ですので、戦前の先生に教育を受けた世代では、カルテもドイツ語で記載したようですし、その世代に薫陶を受けた先生はやはりドイツ語を時々使います。現在でも使われているドイツ語の一覧を示します。

ドイツ語 日本語読み 意味 英語
Eiterアイテルpus
Auskratzungアウス人工妊娠中絶abortion
Obenオーベン指導医attending doctor
Nebenネーベン下の医師junior doctor
Kaiserschnittカイザー帝王切開caesarean section
Krankeクランケ患者patient
Karteカルテ診療録medical record
Gefrielゲフリール迅速病理診断frozen section diagnosis
Geldゲルお金money
Geschreiberゲシュライバー書記者writer
Kotコート大便stool
Schieneシーネシーネsplint
Sterbenステルベン死ぬ(ステる)die, death
Sektionゼクチオン剖検autopsy
Sondeゾンデゾンデsonde, probe
Darmダルム腸管intestine
Titelティーテル学位・博士号Ph.D
Nahtナート縫合suture
Narbeナルべ瘢痕scar
Neuesノイエス新説new
Harnハルン尿urine
Blutブルート血液blood
Brustブルストchest
Herzヘルツ心臓heart
Poliklinikポリクリ臨床実習clinical training
Magenマーゲンstomach, 「胃の」はgastric
Markマルク骨髄(検査)bone marrow
Mund Therapieムンテラ患者への説明informed consent
Regelレーゲル決まり・基準rule
Weisen Blutkorperchenワイセ白血球white blood cell
Rotes Blutkorperchenローテ赤血球red blood cell

どうですか?アイテル、カイザー、ステルベン(ステる)、ナート、ナルべ、ワイセなど、皆さんもまだ使っているのではないでしょうか?僕もゲフリール、ゲシュライバー、ゼクチオンやティーテルアルバイト(arbeitもドイツ語ですね)、ノイエス、レーゲルくらいまでは今でも使います。これらのことばの中で、いくつかは日本語として残り、いくつかは英語に置換されていくのでしょうね。

まあ、これらのドイツ語は全くわからなくても構わないと思いますが、医学専門用語は英語でも覚えなくてはいけないと思います。医学部の学生に授業や実習の感想を聞いたレポートが毎年上がってくるのですが、「病名や解剖名は日本語で話してほしい」、「回診時の説明が英語の専門用語でわからない」と大体書かれています。講義の場合には英語と日本語を併記するようにしていますが、総回診など患者サイドでは日本語で病名を言うわけにもいきません。特に悪性腫瘍ではそうですし、個人情報の問題もあります。略語や英語で患者さん本人や同室の患者さんにわからないように話すのですが、それが不評のようです。

最近は学生や研修医、専攻医に丁寧な指導をすることが強調されています。それ自体はとても良いことですが、専門用語を英語でも覚えなければ、そのような言葉を使う上級医とのディスカッションに加われません。学生にはその部屋を出た後に廊下で説明するように心がけていますが、今後その診療科でやっていこうとする医師であれば、自身の診療科の代表的な専門用語は、日本語と英語、両方で言えるようにすべきです。これは習う側の心がけ次第であり、その人の勉強にもなります。どの教科書にも、病名などは日本語と英語が併記されています。将来留学したときも、病名や所見のキーワードが英語で言えれば外国人と議論ができます。専攻医の先生はよく覚えておいてください。将来のことを考えれば、学生の時から専門用語を英語で覚えることは決して無駄ではなく、医学教育もこのようなことでは学生にあまり迎合しないほうがよいと個人的には思います。

相澤 俊峰

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