2023年8月
今に始まったことではないが、ある特定の領域の専門家を志向する医師が増えている。内科で言えば例えば循環器内科の中でも不整脈専門、狭心症専門など、細分化した専門分野に特化した医師である。狭い専門に特化したほうがより先鋭的な研究や治療ができ、学会等で注目を集めやすい。若い医師が憧れる「私、最先端やっています」という、いわゆる“格好いい”医師である。斯く言う僕も脊椎外科専門である。僕に骨折や人工関節の手術をしろと言われても、今や自信がない。
あまりに診療内容が細分化してしまったために、10年くらい前から内科関連疾患を中心に総合診療科・総合診療部が作られるようになった。専門の診療科がすぐにはわからない疾患もあるので、まずは総合診療科である程度診断や治療を行い、疾患を絞ってから専門科へ紹介する。総合診療科がもてはやされるのは、細分化した現代の医療に対する一種のアンチテーゼとも言える。
これは内科に限ったことではなく、整形外科でも同様である。Subspecialityの選択は重要であるが、その前に整形外科というspecialityはどうだろうか。自分の専門以外の整形外科疾患を自信を持って診られない整形外科医が増えていないだろうか。僕が医師になったばかりの頃は、骨折はもちろん、脊椎から人工関節まで手術する何でもできる整形外科医が結構いた。こちらの知識が少なかったこともあるが、何を聞いても知っていた(ように思われた)。非常に格好良く憧れたものである。このような勤務医が少なくなった様に思う。整形外科医数が増えてsubspecialityが確立されたのも一因であろう。手術をするならその道のトップにしてもらいたいと思う患者さんが多いのも確かである。
手術はさておき、頻度の多い腰痛、膝痛、肩痛などの症状に対し、それを生じ得る疾患を上げて、確定診断に至る検査をきちんと行えるだろうか?適切な保存療法を行えるだろうか?手術適応を判断できるだろうか?日本は「超」超高齢社会に突入した。高齢者は体の「あちこち」が痛い人が多い。大学病院のように専門外来制を取っていると、肩、腰、膝が痛い人を各専門分野で診ようとすれば、火曜、水曜、木曜と3日間も外来に来なければならない。もちろん、各専門の医師が別々に診察・治療すべき患者さんはいる。しかし、そこまで重篤ではない患者さんであれば、各領域の専門家が保存療法まで適切に行えれば1日の受診で済み、患者さんの負担は少ない。医師数の問題や地元で治療したいという患者さんの要求などから、大学や分野に特化したセンター病院以外の施設では、多くの分野をある程度診断・治療できる医師が有り難いと思う。少なくとも頻度の高い疾患の診断と保存療法ができ、手術もある程度こなせる、自分でできる範囲、より専門性の高い施設へ紹介すべき患者さんを見極められる技量を有する医師である。総合診療部ならぬ総合整形外科医、いわばOrthopedic generalistである。エコーなどを自在に扱いMRIは全領域で読影でき、骨折はもちろん脊椎であれば狭窄症や頚髄症、膝や股関節のprimaryの人工関節はきちんとできる、くらいの技量があることが望ましい。そのようなOrthopedic generalistを育成していくことが、人材に限りがある東北地方の整形外科診療には欠かせないのではないかと思う。若い先生は、早くから自分の専門を1つに絞らず多くのことを勉強してほしいと願う。もちろん一方では、その分野に特化した世界最先端の治療を行う整形外科医も必要であるが、他の分野を知っていることで、自身の治療のプラスになることも多いと思う。
相澤 俊峰