2025年10月
第74回東日本整形災害外科学会を9月25日、26日の2日間、仙台市の国際センター展示棟で開催いたしました。1年前から橋本 功事務局長を中心に準備し、通常よりも多い800名以上が参加してくださいました。お世辞かもしれませんが、他大学の多くの教授に、「面白い学会だった」、「懇親会を含め企画が素晴らしかった」などと褒められ、当科のスタッフを誇らしく思いました。いろいろと不備がありご迷惑をおかけした参加者もいらっしゃるでしょうが、何卒ご容赦ください。
今回の学会のテーマを「洗練温故―継続は力なり」としました。「洗練温故」は「温故知新」の類義語です。昨年仙台徳洲会病院の井上尚美先生が会長を務められた第50回日本骨折治療学会のテーマも類義語の「覧古考新」でした。最近少し下火になったとは言え、学会のテーマでは四文字熟語が使われることが多いので、適当な四文字熟語を探しました。「温故知新」は医師たるものは決して忘れてはならない心がけです。歴史を知ることは大事です。テクノロジーの進歩とともに、昔はアイデアがあってもできなかったことが、できるように、あるいはより上手にできるようになっています。先人のアイデアは、時に非常な示唆に富んでいます。歴史を振り返りヒントを得ることは大切です。しかし「温故知新」では芸が無い。そこで類義語の「洗練温故」としました。
僕のような凡人が思いつくことは、歴史の中で、大概誰かが思いついています。そのためにも歴史を学ぶことが大切です。アイデアを実用化するには、現代版にブラッシュアップしなければならず、そのためには日々の継続が必要です。「継続は力なり」は、僕が最も好きな言葉の1つです。いくら才能に溢れる人でも、継続できなければ一仕事を成し遂げられません。逆に凡庸でも10年継続すれば、周囲から一目置かれる存在になれます。人間国宝のような特別な才能が必要な「継続」もありますが、ほとんどの「継続」は本人の努力次第で達成できます。「洗練温故」も「継続」も特別な才能を必要としません。そこでこの2つをまとめて、今回のテーマとしました。
最近の医療業界の厳しさは皆さんご存知のとおりです。2024年度は全国の81大学病院のうち57病院(70%)が合計で500億円以上の赤字だったと報じられています。学会開催も同様に厳しい状況です。日本整形外科学会のような大きな学会や日本脊椎脊髄病学会など各分野の専門学会は、大体開催費用を学会本体が負担するようですし、参加者が多いのでメーカーも力を入れてくれます(それでも2017年の第90回の日整会のときに色々苦労はしましたが)。逆に東北整形災害外科学会クラスの小さな学会は、参加費と学会からの補助+αでなんとかなります。他の大学の教授に伺っても、東日本や中部整災クラス、参加者1,000人前後の総合学会がもっとも開催が難しいのでは、と思います。とくに東日本整形災害外科学会は、日整会会員あるいは北海道、東北、関東の整形災害外科学会の会員で東日本に入会している人の割合が低い。東日本なので日整会会員の半分14,000人が会員かと言うと、東日本の会員数は実は2,200人くらいです(ちなみに東北整災でも1,200人くらい)。東北地方であれば、東北整災と日整会には大体の先生が入会していると思いますが、東日本整形災害外科学会の場合、高い県で50%、宮城県は一時期は最低レベルの10%前後でした。今回の学会を契機に同窓会の先生方がたくさん入会してくださったので、何とか面目が立ちましたが、やはり学会員が少ないと参加者も少なくなります。また、いつも学会でお見受けする先生だからと演者をお願いしても、東日本の学会員ではないということがあります。プログラムの作成上気を使うところですね。今回は幸いにしてスポンサードセミナーに14のメーカーの協賛が得られました。しかし、メーカーも大分厳しい状況のようで、以前であれば演者、座長、内容を主催者にお任せだったのが、最近は指定されることも多くなりました。今回は「洗練温故」にちなんで、「スポンサードセミナーNow & then」の形で前半にその道の権威に歴史や現状、後半は中堅の先生に現在の進歩や今後についてお話していただく、ような構成を考えました。いくつかではこのようなコンセプトでセミナーを開催できましたが、全てではありません。昨今製薬や器械メーカーなども大変で、今後の学会運営をどうするか、医療業界全体で考えなければならないですね。今回は橋本先生のアイデアで器械展示を休憩室の周りに配置し、飲み物やお菓子を絶やさないことで常に休憩室に人がいる状況を作り、器械展示を見やすい環境にしました。主催者、製薬や器械メーカーがウィンウィンになるような学会にしないと、学会の開催にメーカーの協力が得られなくなるかもしれません。ご協力いただいたメーカーの皆様には、この場をお借りして深謝申し上げます。
学会開催前は天気予報が非常に気になりました。というのも全員懇親会を屋外で予定したからです。センダイガールズプロレスリング(仙女)の特設リングを中央に、まわりにテーブルやキッチンカーを配すようにしました。雨が降ればテントを張りますが、かなり規模が小さくなります。日中は雨が降りましたが夕方には止んで、気温も適温、絶好のコンディションでの全員懇親会となりました。僕と秋田大学宮腰尚久教授との下手な「プロレスごっこ」で始まった全員懇親会ですが、仙女は盛り上がりましたね。東北大学関連の学会ではここ15年位プロレスを出し物にしているのですが、毎回参加者が熱狂して見てくれます。今回も食べることも忘れ、皆さん真剣に見てくださいました。カウント2.5を何回やるの?という、わかりやすさでしたが、それでも引き込まれるのは、鍛え上げた肉体同士のぶつかり合いが、例えストーリーがあっても、人間の動物としての本能を興奮させるからでしょうか?試合後には皆さんニコニコで記念撮影されていました。盛り上がって本当に良かったです。
学会そのものも結構盛り上がったと思います。東日本整形災害外科学会の会場は聴講者が少ないことが多いのですが、今回は約800名の参加者にも関わらず、各会場に結構人がいましたね。スポンサードセミナーも各会場ほぼほぼ埋まっていました。スクール形式で部屋を「狭め」に設定した分もありますが、4−7会場を同時進行しても人が入っていました。シンポジウムは分野横断別にしたので、「あまり人が入らないのでは?」と心配しましたが、結構賑わっていましたし、質疑応答も活発でした。個人的には大学の同級生で福島国際教育研究機構(F-REI)の大和田祐二先生の特別講演が非常に印象に残りました。福島から世界へ、福島の復興を担う人材を福島から、というミッションは素晴らしいし、とくに廃炉問題を含めた原子力関連の研究を行いながら、社会実装するのも実際的で実現すべきことだと思います。願わくば、政府あるいは東京電力が中途で降りることなく、継続性を持ってF-REIを発展させてほしいと思います。
このほかにもひさしぶりの看護師セッション、PT・OTセッションを設け、多くの演題が集まりました。二日間盛りだくさんの内容でしたが、大きな事故もなく無事終了することができてホッとしています。発表、座長など忙しく働いてくれた大学のスタッフの皆さん、運営を担ってくださった東北共立の皆さん、本当に有難うございました。
相澤 俊峰