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不定期コラム 徒然ではないのですが…9

2024年2月

医師の偏在について(1)

みなさんはシーリングという言葉をご存知でしょうか?専門研修プログラムに関係する先生はご存知でしょうが、他の先生にはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。

2004年に始まった医師の初期臨床研修必修化により、日本で臨床医になろうとする人は、医師免許取得後初期臨床研修プログラムを実施している病院で2年以上の臨床研修を受けなければなりません。そして2018年に日本専門医機構認定の専門医取得を目指す新専門研修制度が始まりました。簡単にいえば、初期臨床研修が終わったら、19の基本領域診療科の専門医になるべく専門医機構が指定した病院で研修しなさい(この研修中の医師=専攻医と言います)、ということです。医師は基本領域診療科の専門医のうち1つは持っていることが求められます(余談ですが、実際はこれが必ずしも守られておらず、自由診療の美容整形外科は形成外科専門医を取得しなくともなれます。すでに矛盾を抱えたシステムなのです)。この新専門医制度は「専門医」が一定以上の知識を有することを第3者機関で認定することで国民に良質な医療を平等に提供することと、専攻医の採用定員数に診療科毎に都道府県単位で上限を設けることで、必要医師数が確保できている地域・診療科へのさらなる応募の集中を防ぎ、結果として診療科や地域への医師偏在を解消すること、を目的としています。

整形外科では2023年度は東京都、大阪府、京都府、石川県、和歌山県、福岡県、長崎県、熊本県でシーリングが実施されました。しかし、このシーリングで医師の診療科、地域偏在は解消されるのでしょうか?専門医機構も「効果については、今年度中に詳細な検討・評価を実施予定」としており、現時点では「?」としています。地方で診療している僕たち、あるいは東北大学よりシビアな環境にある東北地方の他大学の先生たちの話を聞くと、この制度が机上の空論であることは明らかだと思います。東京、大阪等の有力大学はシーリングがない県に関連病院があり(うちもですが)、そこを基幹病院とするプログラムを行っているため、東京がだめなら埼玉採用で、ということが可能なのです。診療科別の医師偏在についても、整形外科を選択してくれる初期研修医は他科に比べて多く他科から羨ましがられますが、仕事がきついけれど人の生死に直結する心臓血管外科のなり手が少ない、一方で美容外科に進む若者が増えている、などの情報を聞くと、何とかしないといけないのでは?と思います。

医師の地域偏在は、整形外科でも問題です。昨年の東日本整災の会長招宴で東海大学の渡辺雅彦教授からショッキングな話を伺いました。北海道の根室市では手術をする整形外科医がいなくなる、というのです。根室市といえば小学校の社会科の教科書にも載っている(?)全国区の漁港です。北海道の歴史を見ると最初に県庁が置かれたのが3都市(札幌、函館、根室)の1つ、つまり北海道開発の中心だった街です。そこには基幹病院も作られました。その根室市に手術をする整形外科医がいないとはどういうことでしょうか。ネットで調べると、確かに根室市立病院には整形外科常勤医が1人で、あとは出張医がくるだけです。この常勤医が大学から引き上げられるということでしょうか。一方で札幌市には全道の半分以上の医師が勤務しているそうです(参考:清水芳行著「医師偏在と地域経済」)。このような状況は何も北海道に限ったことではありません。宮城県も仙台市に医師が集中していますし、能登半島地震のニュースを見ていると、シーリングがかかっている石川県も、能登に行けば整形外科医が十分とは言えないようです。

地域偏在には2つの側面があります。1つは日本全体を俯瞰しての話です。各都道府県でみれば、一県一医大の達成、医学部定員の増加、各医大での地域枠の設置などで、どの県も医師数自体は増えているでしょう。しかし東京や、大阪・京都を含む西日本と、東北地方では大きな差があります。そもそも人口が違うのですが、単位人口当たりに直しても北関東以北で全国平均の人口10万人あたり256.6人(2020年)に達している県はありません(下図参照)。これに対し京都以西では全府県が全国平均を超えています。この傾向は2006年のデータをみても変わりなく、西高東低という医師偏在は、初期臨床研修必修化や新専門医制度の導入で是正されていない1つの証左といえます。

2006年の都道府県別医師数(厚労省HPより)
2020年の都道府県別医師数(厚労省HPより)

 

・・・「医師の偏在について(2)」に続く

相澤 俊峰

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