2023年6月
固いコラムが続いたので少し柔らかい話を。先日某国営放送の「六角精児の呑み鉄本線 日本旅」という番組をたまたま見ていました。六角精児さんがローカル線に乗って酒を呑み、着いた土地で酒を呑み、あれば酒蔵見学をして酒を呑む、という旅(酒)番組です。その中で面白い歌が聞こえてきました。字幕が出ていて六角精児さん本人が作った歌のようです。非常に心に(身に)染みる印象深い歌なので調べてみました。「お父さんが嘘をついた」(作詞作曲 六角精児)という曲で、以下のような歌詞です(2番から)。
若いころからの 偏食がたたり
尿酸値が異常に高い 痛風になったようだ
医者から食事制限をつげられる
でも 好きな物は 中々止めれず
塩辛 エイひれ アン肝 このわた
今日もオイラは痛風におびえる
この頃 何かのはずみに 生活に余裕ができちゃった
飲み屋に行っても 好きなものが アレコレ頼める
でも 体を思うと 好きなものは頼めず
人に勧める魚卵やホルモン それをおいらは横から貰う
カラスミ 全国の珍味 高まる尿酸 できる結石
結石が下りて震える尿道 激痛冷や汗 訪れる無力感
今日もおいらは何とか生きている
なかなか深い歌詞で身につまされます。聞いてみたい先生はYouTubeを探してみてください。
僕も40歳のときに尿管結石を経験しました。現在東北労災病院にいるO先生の結婚式の日で、当時勤務していた釜石市民病院から車で駆けつける途中で発作をおこし、あまりの痛さに途中からUターンして釜石に戻りました。O先生、欠席してすみません。この歌を整形外科外来で1日中流していたら、痛風患者が減るかもしれません。結石経験者ということでお察しいただけると思いますが、何を隠そう(隠しませんが)僕も尿酸値が一時9.8 mg/dlありました。幸い痛風発作の経験はありませんが、かなり早い時期から高尿酸治療薬を服用しています。以前仙台の北の方で手術をバンバンしている先輩医師が、「高血圧予防するために飲み食い我慢するくらいなら、降圧剤1錠飲んで好きなものを飲んで食った方がいい」と言っていました。「まさにそのとおり!」と思って、僕も発作もないのに高尿酸治療薬を飲み始めたのです。もう20年も前の話です。最近はあまり呑めなくなってきましたが、僕はビールが大好きです。ビールを呑むために高尿酸治療薬を服用してきたといっても過言ではありません。
かなり前にやはりビール好きの医師が自分でビールを飲んでも尿酸値が上がらないという本かコラムを書いていたと思います。これを拠り所に僕もプリン体=0の発泡酒など飲まず、ビールを愛飲してきました。ビールと高尿酸血症に関係があることは、2004年のLancetなどの大規模研究で明らかなようです。個人的な、n=1の結果を全体に普遍させるのは科学者として正しい姿勢ではなく、自身に都合の良い症例報告だけを探してきて、「だから自分は正しい」というのも科学者にあるまじき行為です(泣)。しかしまさに「好きなものは止められず」、いろいろな屁理屈をつけてしまうのです。
僕は尿酸値の高い患者さんには、必ずしも食事制限を勧めません。Alternativeな説明をします。高尿酸血症は尿管結石のほか痛風腎や動脈硬化の原因にもなるので、尿酸値を下げる必要があるのは言うまでもありません。それを薬に頼るか、食事制限や運動によるのかは本人の選択に委ねています。これが正しいのかどうかわかりませんが、自分が食事制限できないのに、患者さんにだけ偉そうに勧められないからです。研修医のときのオーベンが、「整形外科医は太ってはいけない。患者さんに減量指示ができないからだ。」と教わりました。これを守って体重は学生の頃と大差ありませんが(筋肉の脂肪への置換=fat replacementなのかlipoplastyなのか、が進んでいるのは如何ともし難い)、高血圧や高尿酸血症に対する塩分制限や食事制限はやる前から諦めていました。人は易きに流れる。聖人君子でない医者が患者さんに指導するのは難しいですね。
相澤 俊峰