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不定期コラム 徒然ではないのですが…22

2025年4月

2024年4月に医師の働き方改革が始まって1年が経ちました。皆さん、働き方が変わりましたか?大学では随分前からメディカルクラークが配属され、書類仕事はだいぶ減りました。入院患者さんの退院時サマリーも大体書いてくれます。最近は土日や深夜に当番以外で医局にいる先生もあまり居ないようです(いたらごめんなさい)。大学院大学になる以前は、僕を含めて夜と土日が実験の日でしたが、それが無くなったのであればいくらかは大学の環境も良くなったのでしょう(これは大学院大学になって研究の主体が以前の教室員(医員や助手(助教ではない))から大学院生になったことが大きいと思いますが)。ただ、毎日の教室員の働きぶりを見ていると、臨床に関して言えば、「働き方改革」前後で大きく変わったようには見えません。「働き方改革」が進んでいないとすれば、何が問題なのでしょうか?

おそらくは主には3つ原因があると思います。1つは医師の仕事量を減らさないうちに「働き方改革」を始めたことです。仕事量が大して変わらないのに早く帰りなさいと言っても、「はい、そうですか」とはなかなか行きません。手術はドイツのように時間で術者が変わるようなシステムでなければ、途中で手を下ろせません。また予定した手術は、時間が遅くなろうともその日のうちにやらなければなりません。医局を含め会議や勉強会も相変わらず17時過ぎに始まるものが多いようです(これは改善の余地あり。参加者が問題になりますが、勤務時間内に会議時間枠、勉強会枠を設けるのもありと思います)。医師1人あたりの仕事量を減らすためには、仕事量そのものを減らすか、仕事をする医師を増やすしかないのは小学生でもわかる算数の問題です。日本全体の医師数は増加していますが以前のコラムでも書いたように診療科、地域の医師偏在のために、その実感がありません。今後の人口減少と国の財政に占める医療費の割合を考えれば、これ以上の医師数増加は得策ではありません。「医師偏在の是正」を国策として行うのが最優先だと思います。厚労省は昨年12月に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を発表しましたが、全く持ってスピード感がない。あたかも厚労省には医師偏在を是正し「医師の働き方改革」を進めるつもりはない、そのうち医師が増えるから何とかなる、その間に自殺者や鬱になる医者がいても仕方ない、とも取られかねないようなスピード感です(本当は僕らの知らないところできちんと進んでいるのかもしれませんし、そうであってほしいとは思います)。医師の仕事量を減らすには医師が本来行うべき仕事とそれ以外を明確に線引きし、それ以外については医師以外が行うタスクシフトを徹底すべきです。しかし、譲るべき人に十分な教育とそれに見合う報酬を与えなければ人は集まりません。タスクシフト先は看護師や医事事務になるわけですから、彼ら・彼女らの条件を上げることはmustです。DXもこれを習得するために時間外労働するのでは「?」と思います。導入する際には習得しやすいシステムの構築、教育環境の整備もお願いしたいですね。

2つ目は改革を医師の自主性に任せていることです。前段の仕事量とも関連しますが、本気で「働き方改革」するのであれば、患者さんの不要な病院の受診を無くし(敢えて「減らす」でなく、「無くす」と書きます)、病院全体の仕事量を減らします(まあ、患者さんに何が「不要」か判断できないことも勿論あるのですが)。とくに大病院への受診は、開業医などからの紹介を徹底させます。その代わり診なければならない患者さんは絶対に断らないことは言うまでもありません。これを行うと病院の収入が減り、倒産する病院もでてくるかも知れません。適正な病院数・病床数へのダウンサイジング、諸外国なみの医療費の病院への支払い、医療費を誰が負担するか(税金か患者負担か)など、痛いところも含めて議論すべきです。

国民皆保険、フリーアクセスは日本医療の特筆すべき長所ですが、これによる弊害もでているのも間違いありません。病院ごとの役割分担を国民にもっとわかってもらい、徹底させなければないと思います。「働き方改革」についても、竹中直人さんを起用したACジャパンの宣伝が時々流れますが、あの程度では国民には伝わらないと思います。受診が必要な患者さんを必ず診られるようにするためにも、受診のルールを守るように行政側で国民の教育・指導を徹底してほしいと思います。また医師も労働者である以上、少しでも多くの報酬を得たいと考えるのが自然です。勤務医、特に大学病院勤務医は大学病院からの賃金がそれほど高くないため、長時間労働や外勤で補填している側面があります。定時で帰っても十分な給与が得られる環境が必要です。不要な受診をしない、病院の役割分担の徹底による受診患者の分散、病院収益の確保、医師の給与アップを図ったうえで、病院への行政指導を伴う「働き方改革」を実行するのです。医師の何%が月何時間以上時間外労働したら、病院に対しこれこれの指導(罰則)を設けます、とでもすれば、きっと「働き方改革」が進みます。繰り返しになりますが、これを行うためにはまず、その前段階の医師1人あたりの仕事量の減少や患者さんの受診ルールの徹底の達成などが必要であり、いきなり罰則を伴う行政指導が入れば、今以上の医療崩壊を招くでしょう。そして決して医師の自主性に任せないことです。医師の多くは、患者さんがいれば自分や家族を犠牲にしても、患者さんのために動く人種なのです。心身に障害がでるまでそれに気づかない人たちの集まりですから、医師以外がこれをコントロールしなければならないと思います。また、患者さんと向き合う医師が受診ルールの徹底などを言うと、医師が患者さんから標的にされかねません。そういう意味でも医師個人に任せてはいけないと思います。

3つ目は先にも少し書きましたが、医師の気質の問題があるのでは、と思います。若い年代の医師はわかりませんが、中堅以降の先生は、僕の周りを見渡しても、長時間労働をあまり苦にしません。患者ファーストが身に染み付いています。「医は仁術なり」的な考え方がDNAに深く刻み込まれているようです。これはこれで素晴らしいことですが、もしかしたら「働き方改革」を医師自身があまり受け入れない、受け入れてはいけないような考えが心の深層にあるのかも知れません。自分の体や家族よりも患者ファースト、という先生は僕の周りにもたくさんいます。また、今回は詳しく書きませんが、論文の執筆や学会参加も、それらを「自己研鑽」とされても行う勤勉さもそうですね(僕は病院や大学の所属名で行っていれば、これらは須らく「勤務」と思います)。このような医師の気質が、2つ目で書いたように医師の自主性に任せても「働き方改革」が進まない一因ではないか、と考えています。

今回の「働き方改革」があまり進んでいるように思えないのは、その前段階の1人あたりの医師の仕事量の減少を達成しないうちに、勤務時間の減少を図り、しかもそれを基本的に医師の自主性に委ねているから、つまりやり方の順番と主体が間違っているからだと思います。仕事が減らないのに勤務時間を減らせるのは、無駄をしてきた部分だけです。とくに忙しくかつ医師が不足している地方中核病院で、1人あたりの医師の仕事量を減らすにはどうしたら良いのか、国や厚労省は東京ばかり見ないで考えてほしいものです(まあ、僕が思うのだからやっているとは思いますが)。今回は取り留めがなく、少し辛辣だったかも知れませんが、皆さんはどのようにお考えでしょうか?

相澤 俊峰

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