東北大学整形外科学教室

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整形外科長あいさつ

皆さん、こんにちは。2021年4月に東北大学整形外科学教室の第7代教授に就任した相澤です。東北大学整形外科は1942年に創設され、昨年、2022年に開講80周年を迎えた伝統ある教室です。これまで東北地方の整形外科治療の中心として、数多くの患者さんを治療してきました。現在も宮城県の他に岩手県、山形県、福島県に約50の関連病院を有し、東北大学整形外科同窓会(陵整会)会員数も550名を超える全国でも有数の整形外科学教室です。ここでは、整形外科とは何かと、東北大学整形外科の特長について述べさせていただきます。

整形外科とは

整形外科という言葉は、フランス語のL’Orthopedie、小児の矯正、という言葉を、東京大学整形外科学教室の初代教授である田代義徳先生が「整形外科」と翻訳したことに由来します。ヒトを動かすために必要な運動器(手足や脊椎などの骨格、それをつなぎ合わせる関節、靭帯、さらにそれらを動かす神経、筋など)、すなわち四肢、関節および脊椎の疾患を扱う診療科です。疾患は小児の先天的なものから高齢者の変形性関節症にいたるまで、また骨折などの外傷から悪性腫瘍にいたるまで、多種多様なものがあります。診療科名に「外科」という言葉が使われてはいますが、内科的な治療(薬や理学療法)と外科的な治療(手術)の両方を行っています。手術は顕微鏡を使った繊細なものから、人工関節や背骨の配列(アライメント)を変えるダイナミックなものまで、多くの種類があります。

日本は世界で最も生命寿命が長い国の1つで、2022年に厚労省が発表した平均寿命は男が81.5歳、女が87.6歳でした。しかし、日常生活に制限のない時間、つまり要介護・要支援期間を除く健康寿命となると、男が72.1歳、女が74.8歳と約10年短くなります。要支援・要介護の原因では運動器の障害が最も多く、生命寿命が伸びた現在、この健康寿命をいかに長くするかが、整形外科に課せられた大きな使命の1つとなっています。

東北大学の整形外科の特長

東北大学は建学以来研究第一、門戸開放、実学尊重をその理念としてきました。整形外科も基礎研究から臨床研究まで幅広い研究を行っており、その成果を広く国内外に発信してきました。第2代飯野三郎教授の22Aステンレス鋼や、現在主流であるTi-6Al-4V合金より優れた特性を有する新しいチタン合金(Ti-Nb-Sn)を用いた人工関節の開発などを東北大学金属材料研究所と、リン酸オクタカルシウムを使った新しい人工骨を歯学部と開発するなど他学部との共同研究も積極的に行ってきました。これらは市販あるいは市販の準備段階まできております。実臨床に役に立つ研究をする、実学尊重の例と言えるでしょう。また、門戸開放の理念に従い、多くの留学生のほか、同窓会などで資金を提供し、毎年数名のフェローを独自に国外から受け容れるなど、特に発展途上国の整形外科医の育成に尽力してきました。

臨床ですが、大学では脊椎、腫瘍、膝関節、股関節、肩関節、上肢・末梢神経、リウマチ、足・足関節のほか、2021年4月からは隔週でスポーツ外来を始めました。救急部には専属の整形外科医が在籍し、重度外傷の治療に当たっています。整形外科の専門分野をほぼ網羅していると言えます。また、関連病院にも病院毎に得意とする専門分野があり、世界をリードする治療、研究を行っているところもあります。大学と関連病院、あるいは関連病院間で連携を取りながら、患者さんに最適な治療を行っています。各専門分野は、早いところでは30年以上前から独自の研究会を作り、同門内での知識の共有と技術の向上を図っております。このように、大学ばかりでなく関連病院を含めた東北大学整形外科グループとして治療できるのが、東北大学の最大の強みです。

学生・研修医の皆様へ

整形外科は頚椎からつま先まで、体の幅広い分野を扱います。対象となる組織も、骨、関節、筋、靱帯、腱、神経と多彩です。診断、リハビリを含めた治療、再発予防の教育までを一貫して行うことができます。手術を含めた治療も多種多様で、研究を含めまだまだ発展途上とも言える診療科です。言い換えれば、自分が新しい発見をしたり、治療法を開発する機会がたくさん残っているのです。実にやり甲斐のある分野だと思います。

東北大学の関連病院には外傷、脊椎、膝関節、股関節、肩関節等、日本でも有数の手術数を誇る関連病院がたくさんあり、優秀な指導医のもとで多くの患者さんの治療にあたることができます。超高齢社会の日本では、前述したように健康寿命の伸延が重要なテーマです。運動器疾患の治療を通して、私たちと一緒にこのテーマに取り組みませんか。

教授就任から2年を経過して-「ワクワク」を育てよう

皆さん、こんにちは。早いもので、私が東北大学整形外科の教授に就任してから丸2年が過ぎました。この間に世界は大きく変化しました。3年前に始まった新型コロナの感染拡大はその後も猛威を奮い、厚労省の発表では2023年4月現在国民の約30%が感染し、累計死亡者数が74,110人にのぼります。昨年秋ころからようやく政府が「コロナとの共存」の方向へ舵を切り、この5月から感染症の分類が結核などと同じ2類相当から季節性インフルエンザと同等の5類相当に変更されます。私は脊椎外科医なので脊椎カリエスを扱います。皆さんご存知のように、結核は治療に難渋し命に関わるとても恐ろしい病気です。この結核と新型コロナが同等というのは非常に違和感がありましたが、5類相当であれば納得かな、という感じです。

昨年2月にはロシアのウクライナ侵攻によりウクライナ戦争が始まりました。多くの人々が負傷・死亡し、家を焼かれ、国外へ避難しています。西側の自由主義社会とロシアや中国を中心とする権威主義国家の価値観の相違・分断が浮き彫りになりました。東北大学整形外科でもウクライナの負傷兵を受け入れ、治療に当たりました。もともとはドライバーで兵士ではなかったそうです。このような市民が生命の危険にさらされるのは、理由がどうあれ間違いです。一刻も早い戦争の終結を願わずにはいられません。

さて、私は教授になるときに2つの目標を立てました。1つは「東北大学整形外科のプレゼンスを上げる」こと、もう1つは「格差のない東北大学整形外科診療圏の構築」です。2つ目の目標のためには人材の確保、育成が重要です。2021年から2023年までの3年間では各10名、15名、9名とコンスタントに毎年10名前後の先生が東北大学の研修プログラムに参加してくださいました。一方で定年退職、開業される先生方も多くおります。地域の中核となる病院ではなるべく整形外科医を増やし、余力の有る整形外科医療を行っていただきたいと思っていますが、まだ時間がかかりそうです。一方「東北大学整形外科のプレゼンスを上げる」ためには、大きな学会での発表を増やす必要があります。教室員、努力のおかげで、日本整形外科学会での東北大学からの発表が昨年、今年と30演題を数えました。もちろんこの他に関連病院の先生方の発表もあります。東北大学の発表演題数は2000年代が毎年1桁、2010年代が10演題〜40演題ですからかなり増えております。まだまだ千葉大学や名古屋大学などには及びませんが、この数を少しずつでも増やしていきましょう。

新しい研究として、肩こりなどの筋の硬さを計る筋硬度計の開発と、3次元動作解析などを使用した歩行解析を2021年から始めました。これらも少しずつですが成果が出ています。筋硬度計はプロトタイプが出来上がり、いよいよ実際に計測を開始します。歩行解析では脊柱後弯症患者の股関節の可動域との関係で面白いデータが出始めており、今年の学会でその一部を発表します。また腰痛・仙腸関節障害学連携講座を開設したJCHO仙台病院と「なぜヒトは直立歩行ができるか」を仙腸関節を中心に研究し、昨年Gait & Postureに論文が掲載されました。更に研究を進めています。このような新しい研究は本当に興味深く、自分たちしか知らないことがあるかもしれないということに「ワクワク」します。

この「ワクワク」感というのは、言い換えれば「期待感」、「高揚感」です。うまく行った、という達成感とはちょっと異なるかもしれません。私たちは、これから自分がすることがうまくいくのでは、うまくいきそうだ、という時に「ワクワク」するのだと思います。新しい挑戦に「ワクワク」することは、モチベーションを維持する上で非常に大切です。医師である以上、一生勉強しなければなりません。義務感から「イヤイヤ」勉強するか、知的好奇心を充足させようと「ワクワク」勉強するかが、モチベーションを左右します。「ワクワク」は「楽しく知る」ことにつながります。ちょっとした時に感じるこの「ワクワク」感は、勉強や研究を続ける上でとても大切です。皆さんには、知る喜び、「ワクワクする心」をもって、日々の診療や研究にあたってほしいと思います。

2023年4月

東北大学整形外科教授 相澤 俊峰