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不定期コラム 徒然ではないのですが…6

2023年11月

学位論文

今年も学位論文の提出が終わりました。大学院4年生の皆さん、お疲れ様でした。提出が終わっただけで審査はこれからですから、合格までもうひと踏ん張り、頑張ってくださいね。

僕は教授就任から全員の学位論文を添削してきました。まあ、大学院生が毎年数名だからできるので、これが千葉大学のように毎年20名以上も大学院生がいれば、当然できないしょうね。研究内容については直接の指導教官ほどは理解していないし、他の研究室での研究は、内容的にもわからないものも多々あります。ですので、直せるのは1)明らかな論旨の間違いや矛盾、2)論文の体裁やルールの誤り、3)日本語、の3つになります。

1)論旨の間違いや矛盾については、イントロで書いてあることと考察で書いてあることが違う、例えばイントロではあることを肯定しているのに考察ではそれを否定的に書いたり、方法に書いていない結果を書いたり、結果に出ているのに考察していない(量はともかく)など、いろいろな矛盾や過不足に気づくことがあります。学位論文は通常の論文より長いので、かなり注意深く集中して読み込む必要があります。どんな論文でもそうですが、論旨・内容に矛盾があってはいけません。一段落一段落、一文一文、一語一句に矛盾がないか、何回も見直すことが大切です。論文は研究の結果を示しながら、ある結論に読者を導くという、大きな流れに従って書かなければなりません(勿論その過程で不正があってはいけません)。そのため、過去の文献で様々な意見が出されている場合には、自分の研究を肯定するような文献を取捨選択します。勉強した論文を全部出すのがフェアだと考えるのか、多くの過去の研究を紹介し結局何を言いたいのかわからない、ということが時々見られますので注意しましょう。

2)論文の体裁やルールの誤りは沢山あります。毎年年度初めに論文の書き方の講義をしますが、あまり参考になっていないのか、と思ってしまいます。学位論文がよい機会なので本気で覚えてほしいと思い、何回も何回も直します。論文やプレゼンのルールについては、「スキルアップセミナー」の安部雄一郎先生(えにわ病院)の「プレゼンの仕方」、僕の「論文の書き方」の講演が、東北大学整形外科のHPで視聴できます(ID/PWが必要です)。これらや市販の本でよく勉強して欲しいと思います。

僕が直した後同じ間違いをして(間違いを訂正せず)再提出する先生がいます。今はWordに「文書比較」機能がついていますから、簡単に訂正できるのに「?」と思ってしまいます。同じ間違いをするのは明らかに注意不足ですね。これはおそらく便利になりすぎたのも一因だと思います。昔の話はあまりしたく有りませんが(してるやん)、僕が新人の頃(平成の初め)は、まだ手書きで論文を作成する先生も多くいました。僕の最初の2−3本の論文も手書きでした。400字の原稿用紙に書いてオーベン(指導医)に見せるのです。オーベンは当然朱筆を入れます(文字通り赤のボールペンです)。直されれば書き直して、また提出します。この作業を3人くらいのオーベンに順にOKがでるまで行うのです。書き直しは多いと10回近かったと思います。行数が変わらないところでの書き直しならば傷は浅いのですが、そうでなければ全部書き直しです。書き直しには非常に神経を使いました。それこそ一語一句間違いがないか、目を皿のようにして確認しました(自慢話か?)。PCのワープロソフトを使った瞬間、この作業から解放されました。書き損じもオーベンの添削も簡単に直せて、ホッとしたのを覚えています。僕の世代より上の先生方はこのように苦労して論文を書いたので、ケアレスミスやオーベンの訂正等には非常に敏感だったと思います。オーベンは何箇所か同じような間違いがあれば、「他のところも同様に直して下さい。」のように書くことが有ります。自分の文章をよく読んで、直し忘れがないか十二分に確認するようにしてください。

参考文献のリストにも毎年たくさん間違いがあります。EndNoteなどの文献管理ソフトを使う先生も多いと思いますが、著者の姓と名の順番、ページや年号の入れ方などはジャーナルによって異なることがあるので、決して万能では有りません。ジャーナルの略称もよく間違いが見つかるところです。これは学術雑誌標準略称(IS04)で決まっていますから、これに基づいて書かなければなりません。また、あるジャーナルはフルスペル、あるジャーナルは略称、もダメです。ページ数も560−565と書くのか、560−5と略するのか、全て統一する必要があります。論文を書き上げたという安心感からか、このようなところの確認が甘くなりがちです。先のWordの文書比較機能もそうですが、便利なものは使えば良い。でも最後には自身の目で確認しなければなりません。そこではヒューマンエラーのリスクが絶えずあるのです。

最後は3)日本語、です。何も美しい日本語、流暢な日本語を書け、と言っているのではありません。普通の日本語を書いて欲しいと言っているのです。主語と述語の不一致、主語の省略(何が主語かわからない)、不自然な「~を行った」(普通は「計測した」、というのに論文になると「計測を行った」になる)、近くで同じ用語を繰り返し使う、などなど沢山あります。正しい日本語を書くためには、やはり本を読むことです。本を読んで日本語に対する感性を磨くことです。加えて2)にも関係しますが、何回も自身の文章を読んで、おかしいところがないか、確認する作業が必要です。提出するまでに、最低でも2−3回は自分の文章を通して(ここが大事)読むことです。それまで気づかなかったことに気づくかもしれません。また、1)~3)の全てに当てはまりますが、やはり実践練習が最善の上達法です。論文を書くことです。学位の研究と並行して、何編か論文を書いてみることです。僕はいつでも添削指導します。

僕の添削能力や持ち時間にも限度があるので、毎年6−7月頃に早めの学位論文の提出を促すのですが、この3年、毎年提出締切りの最終日までかかりました。教授の努めと頑張っていますが、来年はどうなることやら。

相澤 俊峰

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