東北大学整形外科学教室

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不定期コラム 徒然ではないのですが…10

2024年3月

医師の偏在について(2)

もう1つの医師の偏在は、その都道府県内で生じています。仙台圏に医師が集中し、登米・気仙沼地区などに医師が少ないという問題です。日本に置き換えれば東京一極集中が、県内で規模をものすごく小さくして生じている、ということです。宮城県内に限っていえば、まだ勤務医については大学医局がおおよその人事をコントロールしているので、何とか県全体に整形外科医を派遣することができています。しかし、開業の先生は別です。これまで地方で開業され診療を担ってこられた先生が高齢になった場合、最近は御子息などが継承されずに閉院されるケースが増えています。ある地域に開業医が1つと手術を行う公立病院が1件あったとしましょう。もしこの地域で開業医が閉院してしまうと、開業医が担っていた保存的治療などの役割も公立病院が担わなければなりません。すると毎日の外来業務が増え、手術や検査など本来の公立病院の果たすべき役割に支障をきたしかねません。病院の人事は医局で何とかできると思いますが、開業についてはいかんともし難い。NPOとうほく整形外科のキャリア支援などで少しでも地域に役立てるようにしたいと考えていますが、開業するかどうかはその先生次第です。その決定にはその土地の今後の人口の増減=患者数も大きく影響します。地方における人口減少と高齢化の波は仙台圏とは比べ物になりません。20年後に人口が半減するような地域での開業には二の足を踏むでしょう。地方における開業医の減少、それに変わる医療機関の整備も、あまり話題にはなっていませんが、大きな問題なのです。

地方で人口を減少させないためには若者が必要で、若者が生活するためには産業が必要です。産業が東京一極集中なのに、その是正もせずに医師だけあまねく日本の過疎地域にも行ってくださいでは、なかなか地方へ行く若い医師は増えないでしょう。どうしたらよいのか、日本全体で考えなければなりません。できれば、政府機能が日本の各地方に分散すればよいのですが、文化庁の京都移転以外は、何度も議論に上がっては実現していません。例えば厚労省が登米市にあれば、多くの産業が創出され若者が集まり、その周辺の石巻や気仙沼などにも恩恵があると思います。 

病院勤務医の偏在について考えましょう。宮城県であれば、公的病院は国立も県立も市町村立も関係なく、1つの公的病院機構として医師を雇用し、その中の人事異動として地方勤務を捉えてもらうというのはどうでしょう。その際地方と仙台圏でインセンティブを使って報酬に差をつけるのです。地方は時間的な余裕があり、あるいは困難な症例は治療しない。寒冷地手当のようなインセンティブをつけ、基本的には仙台圏より給与を高くします。一方仙台圏では基本給は地方より低いですが、手術でインセンティブをつけます。そして、公的病院機構内の人事異動を数年に1回行い地方と仙台圏をローテーションさせます。一定の条件をクリアすれば(業績や指導力、本人の希望など)アメリカのテニュアのように、希望の病院で定年まで勤められるような仕組みを作ります。このように宮城県内を大きな病院とみなせるような仕組みが構築できれば、もう少し何とかなるのではないか、などとつらつら考えます。より即効性のある解決法は、宮城県内のどこからでも、24時間いつでも、車で1時間以内に大概の手術ができる基幹病院に患者さんを運べるように、病院とインフラを整備することでしょうか?釜石市民病院にいたときは、自分の手に負えない患者さんが来たらどうしようという恐怖がありました(おそらく地方の科長先生は皆さん、同じ思いをされていると思います)。そのような患者さんを24時間いつでも、すぐに受け入れてくれる病院が、最長でも1時間QQ車を走らせればある、その安心感が必要だと思います。

こんなことを書いているうちに2024年度に専門研修プログラムに入る専攻医が、整形外科では昨年から93人の大幅増の744人(全体の7.8%)というデータが出ました。嬉しいことですが、この人的資源をどのように配置し活かすかが問題です。整形外科医も西高東低ですから、これを是正し整形外科医の地域偏在をなくすには、国や日整会が強制力を持って、医師数が多いところから医師不足の地方へ医師を移すしかないのでは?などとも思ってしまいます。しかし、憲法で謳われている開業の自由、移動の自由、就職の自由が医療にも認められています。すべての地域の国民に平等な医療を提供することと医師の自由は相反するものなのでしょうか?難しい問題です。

相澤 俊峰

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