菅谷岳広(H17年卒)
2019年4月から会津外傷再建センターに内地留学させていただいております。当センターは、2015年に福島県立医大の外傷再建学講座として会津中央病院に開設されました。
欧米においてはすでに、整形外傷診療は整形外科から独立して、外傷センターというシステムが確立し外傷専門の診療体制が整っておりましたが、日本でもようやく数年前から全国各地に整形外傷を専門的に診療する「外傷センター」が新設されるようになりました。会津外傷再建センターは東北地方で初の整形外傷専門施設であります(同時期に同じ福島県内で南東北病院外傷センターも開設しています)。
会津地域は、福島県の約40%を占める広大な面積で、医療圏の人口は約28万人です。高齢者の脆弱性骨折はもちろん多いのですが、当院には救命救急センターがありますので、交通事故や墜落などによる高エネルギー外傷や切断外傷の患者さんも多く搬送されて来ます。特に、磐梯・猪苗代はバイクツーリングで全国的にも人気のエリアであるため、バイク事故で受傷した患者さんも多いです。また、骨盤輪、寛骨臼骨折は福島県全域から手術目的に紹介されてきます。
このように、受診される患者さんは非常に多彩でありますが、当センターではどんな外傷疾患に対しても世界レベルの治療を目指して診療を行っており、外傷専門施設としての責務を肌で感じております。
外傷再建センターは整形外科からは完全に独立した科であり、スタッフは、新潟県の整形外傷診療で活躍され、特に骨盤、寛骨臼骨折手術で御高名な伊藤雅之センター長を筆頭に、福島県立医大や新潟大からの専修医を含め現在6名です。また、加えて福島医大やその関連施設などから、脊椎外科の先生や若手の先生が曜日毎に交代でほぼ毎日1人ずつ来てくださっています。さらに、現在は人事の都合で一時不在ですが、なんと外傷再建センター専属の麻酔科医もいました。私は経験年数的に上から3番目であるため、自身の研修だけでなく、微力ながら後輩の指導的役割も担わせていただき、それもまた良い勉強となっております。
救命救急センターと良好なチームを構築しており、初期治療から積極的に治療介入することによって、タイミングを逃さず手術治療やリハビリテーションを行うことが可能となっています。
治療に難渋しそうな重度外傷に対しても、「外傷再建」センターの名の通り、早期の機能再建を目指しております。伊藤先生は関節外科、関節鏡の専門家でもありますし、また手外科専門医もいますので、関節鏡、骨切り術、人工関節、創外固定、マイクロサージャリーなどの再建術を駆使して早期社会復帰を目指すことが可能となっております。
例えば、Gustilo type ⅢB開放骨折を挙げますと、数日以内に内固定と皮弁による軟部組織再建を行うという”Fix and Flap”が現在の標準治療とされていますが、特に軟部組織の再建など、これまではハードルの高い治療法と感じておりました。しかし、実際に初期治療〜治療計画〜1週間以内の再建手術〜リハビリという一貫した治療を目の当たりにし、良好な経過を辿るのを見ると、これが当然行われるべき治療なのだと思うようになりました。しかし、このように重度外傷に対し、初療時から一貫した治療戦略を講じ、実践するには、技術だけでなくシステムも重要であることを改めて実感しております。
毎朝7時半からカンファレンスが行われ、前日の手術症例と当日の手術予定症例全例の症例検討をします。術者は症例毎にスライドを作成し、詳細な手術計画をプレゼンします。手術適応から手術方法、後療法まで全員の目で厳しくチェックします。いい加減な手術計画は許されず、治療方針はあくまでもエビデンスに基づいた標準治療を確実に行うことを基本としているため、毎回Rockwood and Greenなどの教科書や論文で確認するようにしています。また同時に、このカンファレンスでは毎日のように疑問点やまだ明らかになっていないことが浮かび上がってくるため、それが研究のアイデアにもなっています。
この1年間の留学中に、まずは英語論文を1編書くことを目標のひとつにしております。
外傷再建センター医局で毎朝のカンファレンス。5月まで専属の麻酔科医がいたため、周術期のリスク評価などもでき、その日の手術スケジュールも柔軟に組むことが可能でした。
留学が始まって早くも半年経とうとしていますが、非常に充実した日々を送らせていただいております。技術や知識だけでなく、外傷専門施設としてのマネジメント方法など、学びたいことはまだまだたくさんあります。
また、私にとってこの会津は、5年前に竹田病院へ赴任していたこともあり、とても馴染みのある地でもあります。南会津や磐梯・猪苗代など自然豊かな観光地が多く、なんと言っても日本酒がとても美味しいです。残り半年と限られた時間ではありますが、この留学でできる限りのことを学びつつ、会津の生活も堪能したいと思います。
最後になりますが、このような機会を与えてくださった井樋栄二教授をはじめ、東北大学整形外科同門の先生方に心より御礼申し上げます。
将来、東北地方の外傷分野の発展に大きく貢献できるよう、努力いたします。
吉田新一郎(H21年卒)
2019年7月より、英国のBirminghamにあるRoyal Orthopaedeic Hospital (ROH) に留学をさせていただいております。今回機会をいただきましたので、こちらでの生活について御紹介させていただきます。
Birminghamは、人口およそ100万人の、英国ではロンドンに次ぐ第2の都市で、産業革命時代から運河や鉄道とともに工業都市として発達したと言われています。現在も運河が残されており、郊外に住む知人の自宅前の運河にボートを浮かべれば市街地まで辿り着けると聞きました。日本の北海道や北方領土よりも高い緯度に位置しており、最も暑い7-8月でも30℃を超えることは珍しく、夏季は非常に快適に過ごせます。
私の留学しているROHは、NHS (National Health Service)によって管理・運営されるNational centerです。腫瘍、大関節、小関節、足、手、スポーツ、脊椎、小児、リハビリ、ペインなどを様々なチームがあり、数多くの症例を扱っております。私の所属するoncology teamには、日本でいう専門医に当たるconsultantが8名おり、さらに国内外からのfellowが5-6名、observer(私のような現地では医療ライセンスのない医師)が3-4名在籍しています。
英国内には骨軟部腫瘍を扱う大きなNational centerが2か所(大小含めると5か所)に集約化されており、中でもROHは最大の症例数を誇ります。週に15件を超える骨軟部腫瘍症例(そのうち1/2~1/3が悪性)の手術があり、それと同程度の件数の人工関節手術(THAやTKA、それらの再置換)が行われおり、その症例数の多さに圧倒されます。日本の単一施設で1年間に経験できる骨軟部腫瘍手術件数を、1~2か月で経験できる計算になります。また、私のような現地のライセンスを持たないobserverでも、実際に手洗いをして手術に入ることができ、手術を間近で見る(というか助手をする)ことができます。そのため、国内外から数多くの医師が研修に来ており、ROHのoncology teamがトレーニングセンターとしていかに魅力的かが分かります。またこれだけ症例数が集まる施設なので、日本では困難な症例数の多い臨床研究を行うことができます。私も渡英して数日でテーマを与えてもらい、空き時間には他のfellowとともにデータベースにかじりついております。手術など症例を経験することに加え、臨床研究の手法を学び実績を上げること、また他国のfellowとの交流を図ることも留学の目的と考えており、大変充実した日々を送っております。
私のMentorであるAbudu教授は、骨軟部腫瘍はもちろん、変性疾患に対する治療(人工関節や関節鏡)も行っています。治療方針の決定も早く、手術手技自体も極めて迅速な先生ですが、臨床・研究の両面で非常に教育熱心な上に、施設内外から数多くの相談が絶え間なく来るため、超多忙です。それでも、患者さんはもちろん、コメディカルや我々のようなfellow・observerに声を荒げることは一切なく、非常にfriendlyに接してくださいます。豊富な症例数だけでなく、このような先生がいることも、ROHの大きな魅力だと感じております。
週末は基本的にフリーになるため、Birminghamの街中を観光したり、臨床研究や、これまで落ち着いてできなかった勉強をしたりして過ごしています。先日は、現地の日本人会を運営している方のホームパーティーに招待され、楽しい時間を過ごしました。また、7月の末には、oncology teamのメンバーとともに、クリケットをして楽しみました。クリケットは日本ではあまり馴染みがありませんが、英国はもとより世界的にも競技人口が非常に多い競技で、パブに飲みに行ってもテレビではクリケットの試合中継をよく見かけます。初めはルールも分からず戸惑いましたが、初心者でも十分楽しめました。
最後に、貴重な留学の機会を与えてくださった井樋栄二先生、留学助成金申請や研究計画などにつき御指導くださった萩原嘉廣先生、Birminghamでの生活などについて具体的な御助言をくださった保坂正美先生、綿貫宗則先生、留学資金準備のために御協力くださった那須孝邦先生、檜森興先生、森明彦先生に深く御礼を申し上げます。
川上 純(H19年卒)
アメリカの地についてから早いもので、3か月が過ぎました。この3か月は生活および研究のセットアップのためにほとんどが費やされたような気がします。日常生活を送ることにはだんだんと慣れて参りましたが、トラブル解決にあたってはまだまだストレスを感じております。留学生活も始まったばかりですが、その中で経験させていただいたことをここに書かせて頂きます。
私は2019年4月より、アメリカのUtah 州Salt Lake CityにあるUniversity of Utah department of orthopedic, Harold K. Dunn Orthopaedic Research Laboratoryに留学させて頂いております。ユタ大学整形外科は潤沢な資金があり、NIHからgrantをどれだけもらっているかを調査しているBlue Ridge Institute for Medical Research (BRIMR) rankings for 2018では、整形外科の分野の中で全米第1位($12,428,561)となっております。ユタ大学では、資金がある科は大学の敷地内に新たな施設を建設していることが多いです。整形外科もご多分に漏れず4階建てのOrthopaedic Centerを建てています。その中には5つの日帰り用の手術室、外来、Office、研究所が入っています。当研究所は3つの研究グループからなり、私は肩のバイオメカ研究を行っている、Henninger Research Groupに属していますが、Dr. HenningerはNIHから2億のglantを獲得しております。肩関節のバイオメカ研究を行う上では十分な設備がありますが、とりわけDual fluoroscopyによる2D-3D-registrationの技術が進んでおり、その技術から抽出された正常肩関節の動きをshouder simulatorに還元し、ロボットで死体肩を動かすことができます。私はこのsimulatorを使って研究を行う予定です。
ここでは、研究だけでなく臨床の見学もさせていただいております。アメリカ人は朝が早いことは聞いていましたが、月曜日は、6時30分からSport conference、8時から手術見学、水曜日は6時からClinical conference、7時からGrand round(勉強会)、木曜日は7時からReserch Conference、8時から外来見学をさせていただいております。また、ユタ大学整形外科はNBAのUtah JAZZ、マイナーリーグ(AAAクラス)のBees のチームドクターをされており、選手の診察も見学させていただいております。ユタ大学は体操競技女子が強く、全米選手権大会で最も優勝回数が多く、その選手もフォローされております。
Salt lake cityは人口20万の小さな都市ですが、周辺の地区を合わせたSalt Lake County(群)は120万であり、仙台と似たような雰囲気を感じます。ニューヨークのように都会ではなく、仙台育ちの私にはとても住み心地の良い街です。周辺には動物園、博物館、水族館、遊園地、公園などが、子供達にもいろいろな経験をさせられる施設も豊富にあり、子育てにも良い街です。仙台のようには混まないので躊躇なく出かけることができます。また、さらに足を伸ばせば、国立公園が点在しており、自然を楽しむには良いところだと思います。治安は、人口の半分がモルモン教徒であることから、他の都市よりも安全だと考えられています。実際に街に出てみると、親切な人が多く、日本よりも子供に暖かいです。いままでのアメリカのイメージとは異なり、会う人どの人も本当に優しく、親切な人達で、安心しております。しかし、私が来る直前には中国の留学生が私が住むアパートの駐車場で銃殺される事件があったり、他州での銃殺のニュースがたびたび報じられ、銃社会であることが感じさせられます。
ユタ大学整形外科のスタッフの方々には本当に親切にしていただき、事前に見学に行った際には詳細なItineraryを送って頂き、PhD sutudentが空港まで迎えに来てくれました。研究室の紹介もとても丁寧に教えて頂きましたし、自宅に招待して頂いたり、歓迎会まで行ってくれました。現在もお世話になってばかりですが、今後、研究成果を挙げて恩返しができればと思います。
最後になりますが、私に留学の機会を与えてくれた井樋栄二教授、山本宣幸先生を始めとする同門の先生方、留学準備でお世話になった先生方に心より御礼申し上げます。